旅行

特に大きな目的があったわけではないけれど、少し気分を変えたくて旅に出た。遠くまで行くというより、いつもいる場所から一歩ずらす、そんな感覚に近い。

電車に揺られながら窓の外を眺めていると、普段は気にも留めない景色がやけに新鮮に見える。知らない駅名、初めて降りるホームの匂い、微妙に違う空気。たったそれだけで、頭の中が少し静かになるのが不思議だ。

到着してからは、特に計画を立てずに歩いた。地図アプリを開いては閉じ、気になった路地に入ってみたり、看板の文字だけで店を決めてみたり。観光地らしい場所も悪くないけれど、何でもない住宅街や、人の少ない道のほうが記憶に残ったりする。

途中で入った小さな喫茶店では、窓際の席でぼんやり外を眺めながらコーヒーを飲んだ。特別おいしいわけでもないのに、その時間がやけに心地よかった。旅の良さって、こういう「何も起きない瞬間」にあるのかもしれない。

帰り道、少しだけ疲れていたけれど、頭の中は軽くなっていた。劇的に何かが変わるわけじゃない。それでも、場所を変えて歩くだけで、気持ちはちゃんと動く。たぶんまた、同じように理由もなく旅に出ると思う。

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